【道のり】
待ちかねた日なのだが、天気は午後から雨の予報である、傘を持って出かける事にしよう。中島醸造は瑞浪駅から歩いて10分程度のようなので、JR中央線で行く事にする。
車窓の流れ行く景色は、既に花の季節から新緑の季節に移っている。
瑞浪駅を降りると、駅前は日曜日の昼過ぎなのだが、あまり人影は目に入らない。瑞浪には蔵が二つあると思っていた、中島醸造と「蔵元若葉」である。地図を見ると、駅からほど近いところに「白梅酒造」の記載がある。3つ目の蔵を探検することとする。
駅前の旧商店街を抜けると、最近区画整理されたのか、道路は碁盤の目のように見通しが利き、建物は新しく、低層のため、空が目に入り明るい。人は殆ど歩いていない。
白梅酒造は広いとおりに面していた。キリンビール特約店の看板が目に入る。黒い鉄柵の門扉が閉じられており、猛犬注意の表示がある。覗いてみるが、もう造りはしていないようだ。すると、猛犬にしては細い声の犬が盛んに吠え始めた。しっかり仕事をしている彼に敬意を表して引き揚げることとした。
所々に、うどん丼もの一式、お好み焼きの看板が、目にはいるが、昼食時とは言え、人がいない。人影のある店にはいるのが、知らない土地での鉄則である。
遠くに2,3人の人が店に入る様子が見えた。近づくと「鵜船」の看板がある、和食の店である。日曜日なのだが、ランチもあるらしい。入ることにする。
店内は、カウンターも小上がりも満席である。カウンターに一つ空いていた席に座る事が出来た。目の前の自動燗付け器には、「始禄」の一升瓶が逆さまにセットされている。
840円という値段を前提に、出されたお膳を見ると、店主のお客様への気持ちを感じる。
お刺身:まぐろ、甘エビ、烏賊
天麩羅:海苔、ししとう、南瓜、キス、海老
焼き物:はたはたの一夜干し
蒸し物:茶碗蒸し(しいたけ、海老、蒲鉾)
付け合わせ:鰹節と昆布の佃煮
香の物:大根、葉のつけもの
椀もの:昆布と豆腐のみそ汁
天麩羅も温かく、はたはたの一夜干しは手作りなのだろう、生生きとしていた。
立派なものである。
病院の横を通ると、右方に土岐川が見えた。道路を行くのは止め、川に沿って歩くことにする。もう、対岸には黒塗りの建物に書かれた「始禄」の白い文字が目に入った。
この辺りの川幅は広く、左手の上流から右手の下流にかけて、空が明るく広がっており、町並みから解放される。川の流れる街はいいものだ。
中島醸造の駐車場は車で一杯であったが。正門前には、若い男の人が一人だけであった。会場の13:50の10分前にしては、人が少ない。雨の予報は気を滅入らせる。
潜戸から中を覗くと、門の左側にテーブルが並べられており、受付のようである。
右の仕込み場の方から、背広の15名ほどの人が歩いてきた。午前中は、一般公開に先立って、酒販店向けの試飲会が開かれており、その参加者らしい。
開場時間になり、正門が左右に開かれた。庭の中央の榎が目に入る。もう若葉で、木は緑の衣装を身にまとっているかと想像していたが、予想に違い、梢に若葉が見える程度であった。若葉の頃はもう少し先らしい。広い庭の中に、大きな木のある、この風景は快い。
【試飲会】
1年前に蔵見学に訪問させていただいたときは、3月であった。もう商品は粗方売れてしまい、手元に残っている酒も少なく。各種イベントも出来ない状態である。18BYは、手元にある程度残して、イベントを開きたいとの小左衛門氏の話であった。それから、丁度一年。お話の通り、試飲会が一般向けに開催されたのは嬉しいことである。
しかも、内容は、小左衛門、始禄の殆どすべてがわかる力のこもった真っ向勝負の試飲会である。
受付を済ませ、試飲酒の一覧表を受け取り、さあ、試飲の開始。
試飲会の会場は、門を入ってすぐ左の、通常は商品の展示即売コーナーである。
入り口前には、酒販店の人達、一般公開の参加者が溢れている。庭の写真を撮り、外で少し様子を見る。
日本酒の会の会員、飲食店、酒販店の顔見知りの人達に挨拶をし、会場に入る。
入り口を入ると、左から右へ横に細長い空間になっており、正面に通常は試飲即売コーナーであるカウンターがある。カウンターの横と通路を挟んで窓側にテーブルを並べ、試飲のお酒と利き猪口、酒のスペック・説明書が置かれている。蔵の人に注いで貰うのではなく、一人一人自由に手酌で利くことになる。
利き酒は、お猪口に入っているものを利いても良いし、カウンターに置いてあるプラスチックの使い捨てお猪口を使っても良い。一升瓶の先には注ぎ口が付けられているので、こぼしたりすることなく適量を注ぐことが出来る。
試飲の酒は、一般の蔵開きでは即売されることが多いが、この試飲会では、購入は出来ない。購入は後日、酒販店から購入が原則である。
試飲できる商品は、31種類もある。これだけあると、特徴を掴みながら、真剣に利いて、印象を簡単に記録するとなると、2時間の時間があっても、忙しいことになる。
会場の奥には、燗酒のコーナーがある。このコーナーでも新しい工夫があり、酒好きには堪らないサービスになっている。
普通の蔵開放では、蔵が燗向けの商品を用意して、その酒を提供するのが一般的である。
しかし、この試飲会では、31種類すべて燗で飲むことが可能である。自分の好みの酒をプラスチックの猪口に入れて、係の方にお願いすれば、燗を付けていただけるのである。しかも、温度の指定までも出来る。何と! 湯煎のチロリには、温度計が付いているのである。
日向燗から飛切燗までお好み次第である。
これでは、時間がいくらあっても足りない。困ってしまうのである。
【試飲一覧】
有難く、31種類の銘柄を試飲させていただいた印象を報告したい。
ただし、寸評は素人の筆者の独断・嗜好によっているので、当然の事ながら、万人の評価と一致するものではない。あくまでも、私見である事をご理解いただきたい。
また、試飲時点は4月22日であり、各銘柄は熟成の時間を経て出荷されるので、販売時点では、この印象とは当然違うものになっている筈である。
「直汲」とは蔵の渡邊氏が開発した直詰め機で槽から瓶に直接詰める、中島醸造オリジナルの製法である。
終了時刻の16:00時になったが、去りがたい人達が残っている。
会場の外は、気付かないうちに雨が降り出している。
外に出てみると、残っている人達は、雨にも構わず、小左衛門氏とお話を楽しんでいる。
5時に近くなろうとする頃、雨は激しくなり、帰ることとなった。
名古屋で2次会を急遽行うことになった我々は、雨の中、快い酔いに身を任せながら瑞浪駅に向かった。
JRの車内で座を作り、小左衛門氏からいただいた一升瓶を傾け、酒談義に時を過ごす我々は、他の乗客の目には異様な集団に映ったに違いない。
小左衛門試飲会の報告はこれで終わりです。
お暇な方は、次にお進み下さい。