【試飲会】
蔵見学が終わり、1階のテーブルに戻り、試飲会である。
試飲と言っても、ブラインドのテストである。
1升瓶に用意された出品酒が3本。
それぞれ精米歩合が異なるが、山田錦の酒である。
精米歩合35,40,50の差を聞き当てることになる。
出品酒は冷蔵保管されていなかったので、折りからの暑さで人肌燗状態である。定例会の冷蔵ブラインドとは勝手が違う。
飲んだ印象は、手前から
- 香りは感じない。落ち着いた酸があるが、厚くはない。後口は良く、癖を感じない。
- 香りは3と違い吟醸香ではなくやや熟れた香り。フルーティな酸があるが、後口にやや渋みを感じる。
- 香りあり。フルーティな酸があり九平次らしい世界。後口はピリ辛系である。
結果は手前から、すべて19BY。
- 米35%の純米大吟醸 商品名:別誂
日本酒度:-
使用米:山田錦
酸度:-
精米歩合:35%
- 精米50%の純米吟醸 商品名:純吟山田錦
日本酒度:+3
使用米:山田錦
酸度:1.5
精米歩合:50%
- 精米40%の純米吟醸 商品名:未発売
蔵の入り口で記念写真
【企画第2部 九平次を楽しむ会】
蔵見学のあとは、会場を移して「醸し人九平次」を楽しむ会である。
会場は、大高駅の裏側の「座わ」である。
「座わ」はI氏が大高を足でリサーチして見つけた会場だそうである。
交通頻繁な通りに面した店は、元は民家か店舗の佇まいである。
玄関横には、九平次別誂の他 十四代、田酒、黒龍、久保田の瓶が並んでいる。
流石に蔵の街大高、良い酒を飲む人が多いようだ。
こういう店に九平次持ち込みの交渉を行い、可能にするI氏の遂行力は敬服である。
入り口を入る。
表から見た印象と違い、広く明るい空間が目の前に広がる。カウンターとテーブル席であるが、居酒屋の雑然とした感じが無く、綺麗である。会場は入り口右の階段を上がった、冷房の効いた2階の座敷である。
蔵見学と帰り道の暑さから解放され、蘇生の気分である。
2階の冷蔵庫から取り出された「醸し人九平次」の銘酒達。
右から
- 別誂 純米大吟醸 醸し人九平次 山田錦
- COLLECTION EYE 2006 醸し人九平次
- お手前大吟 離見の見 佐藤彰洋
- 大吟醸 醸し人九平次
- 純米吟醸 醸し人九平次 雄町
- 醸し人九平次大吟醸無濾過割水無
- 醸し人九平次 純吟 山田錦
【料理】
大根のなます。暑い時にはピッタリ。
豚の胡麻タレソース。
枝豆、トマト、海老フライ、ジャガイモの唐揚げ
お造りの盛り合わせがあったが、写真を撮り忘れた。
鮪、ハマチ、烏賊、蛸があったが、いずれも美味しかった。
こだわりの酒があることが理解できる。
【報告者の個人的な感想】
- 今日、また一つ幻が現になった。
今までよく見えなかった萬乗醸造の九平次の姿が、見えるようになった、勿論細部すべてに亘ってではないが、見えなかったものが見えると言うことは重要なことである。
萬乗醸造は各種イベントに多く参加される蔵ではないので、霧が掛かっているところがあるが、今日のような蔵見学のあと、九平次の銘酒を仲間で楽しむという企画は、その霧を払ってくれたことになる。
全国の九平次ファンには、垂涎の企画であろうが、この様な機会を実現された幹事さん、許諾を戴いた蔵元、暑い中休日を返上して講義・見学に汗を流していただいた若さに満ちた蔵人さんに感謝するのみである。
- 蔵見学で見えたこと。
萬乗醸造は、合理的な若さと活気に満ちた蔵であった。
日本酒はものであり、飲み物であるから、飲んでみなければ判らない、言い換えれば飲んでみれば判るものである。「醸し人九平次」は、日本は勿論、海外でも人気のブランドである。この九平次がどのような環境で醸されているかを知るには蔵を見てみるしかない。
- 機械設備
酒蔵の設備は、大手酒造メーカーの工場のような自動化された設備から古式に則った手造りの蔵まである。
萬乗醸造は、ヤブタ式搾り機、放熱器の他は大きな機械は導入されていないようで、基本的には手造りである。
- 造り
伝統的な造りの方法を採るか、新しい方法を採るか、それを決めているのは合理性である。伝統的な造りの中に合理的な創意工夫を加えるのがこの蔵の特徴のように思われる。
洗米は、笊による手作業・限定吸水などすべて手作業である。製麹もすべて手作業である。細かい感性が要求される場面では手作業の良さを生かすために手間・労力を惜しまない。ただ、麹蓋のような作業性の悪いものは避け、麹箱を使う合理性と二人用の麹箱と一人用の麹箱を使い分ける工夫が其処にはある。
一方、伝統的な造りに他の蔵には見られない創意工夫を加えている。
蒸しは最も重要な工程である。蔵により、昔ながらに和釜に甑の蔵もあれば、温度・圧力・湿度が制御できる機械釜の蔵もあれば、完全自動制御の蔵もある。
萬乗醸造は、独自である。和釜の長所を取り入れているが、他のところで見るものとは違い、独自に企画・設計した蒸し機である。其処には完全に自分のイメージする蒸しを実現するにはどうすべきかという合理性が強く働いている。湿度にムラのない蒸しを造るには、新しい工夫を実行する合理性である。
搾りは普通のヤブタであるが、大きさは中くらいである。ヤブタを使用する理由は品質保持と作業性である。槽は作業を始めて搾りを終わるまでに48時間かかる、ヤブタはその半分の24時間で終了することが出来る。この24時間の品質に与える影響を無くすのが槽を使わない理由である。
このヤブタの使い方にも他の蔵にない特徴がある。温度管理である。
搾りは、醪の完成段階で行うが、この時醪の温度は5℃である。通常は醪をポンプでヤブタに送り搾るのであるが、温度が上がってしまい品質に影響を与えてしまう。萬乗醸造ではこの温度変化を避けるために、ヤブタを温度管理可能な空調室に入れているのである。ヤブタ自体が温度制御されているので、当然醪も温度変化を受けないのである。
萬乗醸造は、吟醸酒に特化しているためか、温度管理については細心の注意を行っている。タンクはすべてサーマルタンクである。火入れは68℃の温度が保たれるように温水の循環システムが設計されている。火入れ後は冷蔵コンテナーで保管し、タンク貯蔵は行っていない。あらゆる工程で温度に関する関心が一貫して流れていることを感じられる。
- お気に入り素材への拘り
萬乗醸造は、お気に入りの素材には徹底して拘っている。酒米は基本的に山田錦である。雄町、五百万石も使われるが、軸足は兵庫産山田錦に乗っている。
酵母は協会14号酵母である。狙った酒質の酒を醸すために最も良い素材に拘り、浮気はせずに米と酵母を極めている。仕込み水は、往復4時間を掛け、名水を汲みに行く手間を惜しまないのである。
萬乗醸造は、想像していたより若々しい活気に溢れた蔵であった。其処には自分の求める品質のイメージへの拘りとその実現のための創意工夫・合理性が感じられた。
この点で萬乗醸造は変化の可能性を秘めている。求めるイメージが変化すれば、すべてを変えられる合理性・若さがある。
新しい「醸し人九平次」が生まれる可能性は充分にあると思われるが如何だろうか。
【データ】
(株)萬乗醸造
〒458-0000 名古屋市緑区大高西門田41
Tel:052-621-2185
創業:寛政元年(1789年)老舗蔵元。
年間石数:約400石。
報告:Y