蔵見学が終わり、冨田酒造さんの紹介による拘りの店で昼食である。
冨田酒造から車で10分くらいの処にある徳山鮓である。
余呉湖の駐車場は車が一杯であり今は公魚(ワカサギ)釣りの最盛期である。
釣り人が湖の桟橋に溢れて落ちそうな余呉湖を左に見て、少し坂を登り、こんな処に店があるのかなと思う住宅地に徳山鮓はある。
熟鮓(なれずし)の店と聞いていたので民宿か古民家風の家を想像していたが、想像とは異なり明るい綺麗な店であった。
入り口の徳山鮓の白い暖簾が残雪の光に映えて、風に揺れていた。静かな環境である。
玄関を入って直ぐに板の間のテーブル席と厨房があり、左の奥に座敷があり、そちらに通された。
座敷には既にすき焼き風の鍋と料理が用意されていた。
一人ずつ用意されている料理。
鯖の熟れ鮓。鯖の脂がまだ生きている若い造りである。
〆鯖に粕の香りがすると言ったら近いだろうか。
徳山鮓では「鯖のまろやか鮓」と言うらしい。
鮒の熟れ鮓。徳山鮓の鮒の熟れ鮓は発酵学の泰斗小泉武夫東京農大教授の指導により完成したものだそうで、普通のなれ鮨のような強い香りのないものである。
真ん中の赤い部分は鮒の卵巣である。子持ち鮒の熟れ鮓は珍しいそうである。
食感は可成り乾燥した感じがあり、鯖のそれの生々しさとは相当差がある。左端の尻尾の方は食感は燻製、味は塩鮭の皮のような味である。
熟れ鮓はちょっとと当初は敬遠気味だった会員も、これは大丈夫と言って完食した。
酒の肴に合うことは間違いないが、表現が難しい旨さである。
静岡の由比周辺の桜エビの刺身である。かき揚げにしたりするものとは全く違う食感である。外側の殻だけの味ではなく、中の味のプリっとした甘さが感じられる。
何故余呉湖畔で桜エビかと言えば、店主の説明では、小泉教授の周辺に組織された「食に命を懸ける会」に参加している徳山鮓と同じ仲間が静岡におり、そこから入手しているとのことである。
鰻白焼きのスッポン鍋仕立て。鰻、焼豆腐、エノキダケ、白菜。
鰻は、夏に店主自ら余呉湖で釣り上げたものを白焼きにしたものだそうである。
鰻は火が通るに従って柔らかくなり舌の上でとろける様になった。
味は醤油仕立てであるが、味醂の甘さも、丸くとげのないまろやかなもので、この割り下は相当期間熟成させたような滑らかさを感じる。
徳山鮓に合わせた銘酒七本鎗3種。
左から、特別純米、天地の唄、80%精米生原酒。
拘りの料理には拘りの七本鎗が似合っている。
座敷の障子窓からは、玄関先の残雪が目にはいる。残雪に当たる陽の光は春の近いことを感じさせる。
旬の魚、公魚の酢の物。白髪葱添え。
口の中でとろける柔らかさである。作り方は解らないが、軽く揚げてから酢漬けにしてあるように思われる。
公魚の唐揚げ。これは美味しかった。というかこれも美味しかった。
カリッとした衣の食感の後、公魚本体は柔らかくふっくらとした旨さになっている。川魚の生臭さとか骨の固さとは無縁である。薄い塩味が後から解る。
これはおかわり自由と言われたので、本当におかわりしたのであった。
子鮎の山椒煮。子鮎の佃煮であるが、一緒に炊かれている実山椒が口の中で柔らかく溶ける程炊かれている。鮎は当然美味しいが、実山椒も又美味しい。
御飯と一緒に出されたもの。公魚の炙りものと山葵添え。つきあわせの大根はへしこの戻し汁に漬けた漬け物だそうである。
これらを熱い御飯の上に乗せて、そのまま頬張るのが正式な食べ方だそうである。
徳山鮓は冨田酒造のお薦めの通り、美味しい料理の店である。
ここは鄙びたところにあるが、料理は洗練されている。コンセプトは柔らかさと上品さである。味も食感もすべて柔らかく上品である。
徳山鮓の料理はここでしか味わえないものであり、再訪の必要がある空間である。
美味しい料理に満足した後は、七本鎗に戻り買い物である。
各自お好みの七本鎗を購入し、車の荷物スペースに納まりきらないようになった我々は、店の前で記念の集合写真を撮影し、漸く帰途につくことになった。
このまま名古屋に真っ直ぐ帰らないところがこの会の活力のあるところで、養老町に寄り牛肉と酒のさいとうに寄り道することになった。
養老にある「丸明」は知る人ぞ知る、肉の有名店である。高山の店も名古屋栄のラシックのレストランも有名だが本店はこの養老町である。
肉にも詳しいA氏によれば、今が牛肉を購入する絶好の時期なのだそうである。年末年始の最大の高級肉需要期を過ぎ、この時期は良い肉が安く販売される時期なのだそうである。
広い駐車場輝くばかりのガラス張りの店舗に到着したのでパーラーかと思われたが、ここが「丸明」本店である。
店の中は購入客が溢れており、戦争状態である。牛肉についてはステーキ用から胃袋、尻尾まであらゆる部位が揃えられており、豚、馬まで売られている。
レジは行列、店内は戦争状態である。世の中には肉好きの人も多いのである。
丸明から遠くないところに「酒のさいとう」がある。
地元の醴泉を始め全国の銘酒を取りそろえている拘りの店である。
店内にはいると入り口を除く三面はガラス張り冷蔵庫である。
豪華な顔ぶれの銘柄を見ているとまた購入欲が出てくるが、既に買いすぎた人は行動に踏み切れなかったが、二人が欲に抗しきれず買ったのは、節操のなさを咎められるべきものか、はたまた流石日本酒の会の会員と賞賛されるべきものか...。
アッと言う間に2日間が過ぎてしまったが、贅沢な日々であった。
手間暇惜しまぬ拘りの酒早瀬浦と蟹づくし料理、へしこの味醂漬けと焼き物の肴、歴史の北国街道と不易流行の銘酒七本鎗と熟れ鮓・うなぎ・公魚の天ぷら...と並べてみると贅の限りである。
手作りの銘酒と同じように、このツアーは快く迎えていただき、見学に加えて美味しい地の料理を楽しむことが出来る宿舎、割烹までご紹介いただいた蔵、三宅彦右衛門酒造さんと冨田酒造さんのご厚意と幹事さんの尽力とがあればこその内容である。
日本酒の縁は素晴らしい。素晴らしく贅沢である。
(報告 Y)
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