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2007.6.10 愛知県津島市の長珍酒造さんの蔵見学に参加しました。

【感想】

  1. 長珍酒造の見学は、昨年の機会は参加できなかったが、今年は念願が叶った。常時見学が可能な蔵ではないので、貴重な機会を提供いただいた林さん、ごとうさんに感謝し、我々のために貴重なお休みの時間を割いて頂いた桑山専務、奥様に感謝するのみである。
  2. 長珍の酒は、それぞれが酒質が違い、ブラインドで飲めば同じ蔵の酒とは恐らく判断が付かないだろう。
    禄の上品な軽やかな世界は、全国の一流の吟醸酒の世界と比肩されるものであるし、吟醸酒はバランスの取れた味と厚みは、冷やでも燗でもいける万能選手、純米酒は燗を付けてしっかりした料理を楽しむことが出来る。
    どうして、同じ蔵で、このような造り分けが可能なのか疑問であったが、今日の見学で理解することが出来た。
    すべて手作りで、それぞれの酒質のイメージで造りが管理されているのである。
    機械化は極力避け、手作りによって、細部に拘ったを造りをしていることが造り分けを可能にしているのである。長珍の造りは、デジタル世界ではなくアナログ世界の感性なのである。その感性は、伝統的な古い感性ではなく、米、蒸しに拘り、常に新しい造りを工夫している研究心、積極性に裏付けられている。
  3. 13BYの純米大吟醸の熟成酒の香り、これは新しい経験であった。
    手に入れたい酒であるが、難しいであろう。長珍の吟醸酒を長期熟成している酒販店があったら教えて欲しいものだ。
    長珍酒造に近い「義侠」には、年代物の熟成酒を扱っている酒店があるが、長珍を扱う酒店も、そのような分野も開拓して欲しいものである。
    ビンテージ文化は、ワインだけの物ではない。世に評価されれば、価格は後から付いてくるものだと思う。
  4. 石高を増やさないようにという家訓と手作りに拘った造りから、長珍の生産量は多くない。新規取引の難しい蔵と聞いている。消費者としては、幻の酒になって欲しくはないが、現状はその方向に進んでいると思われる。
    質、量、技術、経営のすべてを考えなければならない蔵の経営は大変である。
    手作りに拘る造りは大変な労力・体力・気力を要すること、健康に注意されて、腰を労りながら、長珍ファンのために造っていただきたいものである。
    雨の中多くの人が参加したのは、長珍のファンが多いことを証明している。

【熟成酒についての私見】
長珍酒造の12BY、13BYの熟成酒を試飲させて頂く機会を得て、常日頃感じている熟成酒に関する思いを纏めてみた。

  1. 酒の分類
    一般的には、酒の種類については、特定名称酒のスペックによる分類か日本酒造組合中央会の分類が用いられることが多い。
    中央会の分類は、香りが高いか、低いか、味が若々しいか濃醇かの2つの軸で区切り、a香りの高いタイプ b軽快でなめらかなタイプ cコクのあるタイプ d熟成タイプの4類型に分けている。 http://www.japansake.or.jp/sake/enjoy/howto/index.html
    1. 香りの高いタイプ
      香り: 華やかで透明感のある果実や花の香りが特徴。
      味わい: 甘さと丸味は中程度で、爽快な酸との調和がとれている。
    2. 軽快でなめらかなタイプ
      香り: 穏やかで控えめな香りが特徴。
      味わい: 清涼感を持った味わいでさらりとしている。
    3. コクのあるタイプ
      香り: 樹木や乳性の旨味を感じさせる香りが特徴。
      味わい: 甘み、酸味、心地よい苦みとふくよかな味わいが特徴。
    4. 熟成タイプ
      香り: スパイスや干した果物等の力強く複雑な香りが特徴。
      味わい: 甘味はトロりとしていて良く練れた酸が加わり調和している。

      この分類は、分かり易くて良いのだが、こぼれてしまう世界が大きいのではないかと思う。端的に言えば、今回試飲した長珍の純米大吟醸13BYは、この分類では位置づけられないのである。フルーティな香りがあり、同時に滑らかなバランスの取れた味で、吟醸酒の世界はそのまま残されており、後口もスッキリと切れているのである。つまり、中央会の分類で言えば、abcのすべての香り、味わいを持っており、dの熟成酒からははずれているのである。
      言い換えれば、中央会の分類では説明できない、熟成酒の世界があるのである。
      そこで、私見として、熟成温度と熟成年数を軸にした新しい分類法を提案したい。

  2. 熟成酒の分類の試み
    特定名称酒のスペックに、熟成温度と熟成年度、火入れの有無を加えて分類する。
    1. 熟成温度による分類名称
      常熟 常温で熟成されたもの。
      低熟 低温で熟成されたもの。 +15度~+5度位。家庭用冷蔵庫の温度帯。
      氷熟 氷温で熟成されたもの。 0度±2度程度。
      冷熟 冷蔵で熟成されたもの。 -5度~-10度程度。
      凍熟 冷凍で熟成されたもの。 -10度以下。
    2. 醸造年度 瓶詰め、出荷ではなく醸造年度を表示する。
    以上の分類に従えば、

    「長珍 純米大吟醸 火入れ 冷熟 13BY」という表現になる。

  3. 日本酒の熟成酒分野の育成
    酒類に於いて熟成酒が新酒より珍重されるのが、当然である。ウイスキー、泡盛のような蒸留酒はもとより、日本酒と同じ醸造酒のワインにはビンテージの世界が大きく開けている。ボジョレヌボよりビンテージの方が美味く、香り良く、高価なのは広く世間に受け入れられている。
    日本酒の場合、何故この分野が世の中に認められ、経済的にも高い評価が与えられていないのか?
    日本酒の場合、古酒というと、常温でタンクに保存された売れ残りといったイメージで考えられ、香りは奈良漬けの如く、味は味醂の如くドロリとした甘さと旨みがあり、後味も粘り着くような味わいが多く、日本酒通からは敬遠されてきたからだろう。
    しかし、時代は変わっており、造りの技術も冷蔵技術も進歩し、日本酒の熟成酒は最早味醂の様な古酒とは別世界にある。
    常温熟成でも、達磨正宗のように香ばしい香りと、品の良い甘さと旨み、神韻渺々と称すべき後口を持つ熟成酒の世界が存在しているのである。
    吟醸酒の世界で世評が高く、筆者も高く評価する、西田酒造の善知鳥、関谷醸造の空は出荷前に、蔵の段階で1年から2年熟成され、香りと味のバランスが充分に吟味されて出荷されている。 熟成を、蔵で行うか酒販店で行うかは、検討するとして、冷蔵・冷凍施設で熟成されたものを、消費者が名称を見て、どのような熟成が行われたか解るように表示して市場に出すことが必要である。

    日本酒は微妙なものである。ウイスキーや焼酎のように倉庫に積んでおけば良いものではない。ワインは多少保存に気を遣うとしても、上の分類で言えば低熟である。日本酒は光、温度、環境により熟成の足取りは微妙に変わるであろう。保管管理が難しいのである。
    熟成は恐らく、水、米、造り、温度、熟成期間により微妙に変化し、再現性のない物になるかも知れない。しかし、その微妙さこそが重要なのである。ワインのビンテージの世界は、そう言う物であろう。特定の銘柄の特定の年代物であることが評価される世界である。つまり、代替性の無い、唯一性が評価されているのである。
    日本人は微妙な物の違いを尊ぶ民族である。品質に最もうるさい神経質な民族である。日本酒のビンテージが真に美味しいものであるならば、評価しない訳がないのである。

    ワインだけにビンテージが許されて、日本酒に許されないのは不合理である。今、そのような世界が開けていないことに原因があるとしたら、酒造業界、酒販業界のまとまりのなさだろう。同床異夢は止めて、同床同夢の精神で日本酒のビンテージの世界を業界として戦略的に作り出せばよいのである。蔵にしても、酒販店にしても既に取り組んでいる先駆者は存在しているのだから。

(報告 Y)