厳しい寒さの続いた冬にも終わりがある。
春の陽が暖かい日になった。トライブ日和である。
ナビに教えられるまま19号線を左折する。橋を渡り、すぐ川沿いに左折する。
対岸を見るとそれらしき建物が目に入る。
黒い壁に「始禄」の白い文字が見える。
この蔵は赤穂浪士に討ち入りの翌年、元禄十五年に初代中島小左衛門が操業したもので「始禄」「小左衛門」のブランドの由来もそこにあり300年を超える歴史を有している。
建物に近づくと橋があり、反対方向に渡る。裏から入ったようで、敷地の横を通り正面にまわる。
立派なお屋敷の門である。中島醸造株式会社、始禄、小左衛門の看板が目に入る。
門を開けると目の前に広い空間が広がる。
広い敷地の真ん中に大木があり、その周りに、瓦屋根が春の陽にまぶしい建物が配置されている。美しい風景である。ここでは、時間がゆったりとゆっくり流れている。
門の右側が事務棟、左側に試飲・即売コーナーの建物がある。その右には白壁の蔵があり、大木の向こう正面の建物では蔵元レストラン仙橘軒(せんきつけん)が営業されている。
右手建物の事務室に入ると、すらりとして可愛い美人が迎えてくれた。
説明の者が参りますので、玄関左の建物の前でお待ち下さいと案内される。
程なく背の高い、まだ若いが物腰の落ち着いた男性が現れた。
事務の人かと思ったがそうではなく、当主の十四代目小左衛門そのひとであるらしい。
庭の主、榎の大木は実は2代目で、先代はもっと遙かに大きい大木であったが伊勢湾台風の被害に遭い、いまは建物前にある机と椅子が、先代の枝であると説明を受ける。大木には生命力があり、近づく者はそのオーラを感ずることはよくあることだ。
今は冬の終わり、春の一日目で、庭の主はその枝を横に、上に伸びやかに伸ばしている。その枝が芽を吹き、新緑になり、夏の日陰を作る頃、その緑陰に人は集うことになる。その時期、この庭では詩の朗読会、音楽会が開かれ、人々の笑い声と歓声が満ちることになる。
敷地右奥の蔵に案内され、酒造りの説明を受ける。
【蔵見学】
蒸気の甑、搾り器以外は装置らしきものはない、殆ど手作業・手作りである。
300年の蔵であるが、中は意外に明るい。蔵内に、モーツアルトの音楽が流れている。酒母に音楽を聴かせて、心安らかにしている、胎教のように。
目指す酒は食中酒である。料理とのコラボレーション、食事を進める中で米の旨みを感じさせる酒。端麗な新潟の酒とは対極の酒。
少量多品種生産である。銘柄数は37にものぼるとのこと。酒造米は10種類使用する。米の特徴を生かした作りをしている。雄町でもこの旨みが出せるのかと言われるそうである。
直汲み酒。搾り器から貯蔵に流れる途中で取りだした酒、全く酸化されていない状態で瓶詰めされる。
冷蔵貯蔵はコンテナーで瓶詰めで行われている。酒により-18°、-5°、0°のコンテーナーに収蔵される。常温貯蔵のものは蔵内である。
玄関左の試飲・販売所に移り、味見させて頂く。
小左衛門 純米吟醸 八反 1800mlをわけて頂くこととした。
味を見させて頂きながら、蔵元さんの酒に対するお話をお聞きした。
【筆者の感想】
醸される酒に音楽・絵画の遺伝子が組み込まれているのであろう。
「書は人なり」、「文は人なり」のひそみに倣えば「酒は人なり」である。蔵で醸される酒には蔵の人が表れる。東京から新年会に参加できた幸せな人たちもこの温もりに魅せられている。
トーキョーワッショイ まき子の酒 岐阜帰省編
当会も新年会に参加の機会を与えられたいものである。
報告:Y