ごとう屋さん 酒屋はやしさん主催の蔵元見学に行ってきました。
参加者は、飲食店さん(家族連れ)、ごとう屋さん関係者、酒屋はやしさん、熱心な会員M氏、そして書斎派こと私である。
「るみ子の酒」は、ご存知のとおり人気マンガ「夏子の酒」に感銘を受けた蔵元夫人、森喜るみ子さんが尾瀬あきらさんに手紙を出し、それが縁となり誕生した酒である。ラベルも尾瀬さんが描いているという有名な酒だ。しかし、問題はこのラベルである。伝統墨守の書斎派は、ラベルにもこだわる。つまり墨跡鮮やかなラベルでないと美味しそうに見えないのだ。いわんやマンガをやである。そんな訳で、今までこの酒を飲んでいない。
運命のときは突然来た。同じ作りで酵母だけが6号と7号と異なるお酒を見つけたのである。ご存知のように6号は秋田の「新政」から、7号は諏訪の「真澄」から分離されている。この酵母の比較のため、始めて「るみ子の酒」を購入することとした。この比較については稿を改めるが、特に7号は渋みと深い味があり、今までこの蔵を避けてきたことの間違いを認めざるを得ないものだった。
さて、森喜酒造である。M氏から関西線で行くことは難しい旨のアドバイスがあり、氏と書斎派はずうずうしくも はやしさんの車に同乗させていただき上野市に向かった。森喜酒造さんは名阪国道伊賀一宮ICからすぐ。江戸時代末期に建築された酒蔵である。到着すると「よくいらっしゃいました」とマスクの女性が迎えてくれた。
???いきなりラベルの「るみ子さん」登場である。るみ子杜氏は、さばさばした受け答えで我々を蔵の中に案内してくれた。
先ず洗い場、そして甑の前に案内された。そこで説明があった。
「うちには機械らしい機械は、放冷機ぐらいしかありません。すべての段階で人の手の温もりを大切に、人間味あふれる酒造りをしたいのです。」
確かに、エアシュータも蒸米を吊り上げる設備もない。当日も女性が、働いたが寒い日の洗米や米の運搬など大変な作業と思う。
次に蔵の2階に案内された。2階には酒母室、麹室がある。酒母室は独立した部屋ではなくビニールカーテンで、2階の一角を仕切るとのことである。
「これは何ですか。」誰かが桶を指し尋ねた。
「これは生酛を作るときの酛摺り用の半切桶です。酛摺りのときは、2時間半おきに3回櫂で300回ずつ摺ります。」
「山廃とは味が違うのでしょうか」書斎派が尋ねる。
「山廃はもったり、生酛の方はきれいで、ハッキリ違います。生酛は速醸に似ており、敢えて言えばヨーグルト臭い速醸でしょうか。」
生酛の場合、1日目からほとんど米の形がない状態までするそうで、なかなか奥が深いようだ。
次に麹室に案内される。フタが積まれているだけで何もない。
「もう作業は終わっています。ここでは箱とフタと両方使っていますが、90%の場合、温度が急に上がるのでフタを使っています。」
エッ90%?何の話?90%と言えばほとんど普通の食米と変わりない。森喜さんでは地元の農家と契約し無農薬の山田の栽培をお願いしている。
「無農薬の山田はあまり削らなくてもきれいな酒ができるのです。無農薬と言っても合鴨農法のような育て方ではなく、肥料もやらず水も少なめ。農薬もやらず、自然の中で育てるのです。」
「フランスの自然派ワインが、草ぼうぼうの中でブドウの木を育てるのと同じです。そうすることで、逞しい稲が育つのです。」100年前のワイン、自然派ワインを薦めるはやしさんはこう付け加えた。
古代米に近い山田は、過酷な環境で育てることで小粒で5俵(日本晴などは10俵以上が普通)と収穫量は少なくなるが、真価を発揮することのようだ。
そのあと、仕込み中の山田40%6号、速醸雄町60%を試飲させていただく。速醸はまだ上槽まで6日を残すとのこと。甘みが残るタンクの酵母に「がんばってね」と声をかけている姿は、人知を越えたものへの祈りの姿である。最後に上槽中の山田7号を聞かせていただく。「森喜の酒は全量この槽で絞っています。」フレッシュではあるが、硬い。秋以降が期待できる。
試飲は、9号2本、6号、7号2本の飲み比べである。全体的に渋みがあり切れのある酒だ。ごとう屋さんが酒の間を行ったり来たりしながら、繰り返し繰り返し聞く姿に感動。
今回、ごとう屋さん、酒屋はやしさんの厚意でお邪魔した森喜酒造さんでは、酒造りにこめる熱い思いを感じるた。森喜さんには、今回紹介した「るみ子の酒」以外に「妙の華」という銘柄もある。次回、是非試してみたいお酒である。
報告:T