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日本酒の会 sake nagoya 「酒蔵見学」報告(喜多酒造)の報告
とき:2013年3月9(土)
酒蔵:喜多酒造(滋賀県東近江市池田町1129)
http://kirakucho.jp/
宿泊 料理旅館 いたや(滋賀県東近江市八日市本町14-4)
<1日目>
今回の合宿先は滋賀県である。滋賀県の酒は全体的にやわらかく少し香りのあるタイプが多い。昔は灘に近いこともあり、大手の蔵に日本酒を納めていた蔵も多かったと聞くが、現在は各蔵の活躍で酒どころとしてメディアへの露出も大変多い。今回の合宿では、一日目は、東近江市の「喜多酒造」様、2日目は、「畑酒造」様そしてオプションで「平井商店」様を訪問させていただきました。なお、今回の企画の実施に当たっては、あま市の「サケハウス」様と名古屋市中区栄の「地炉の間」様に仲介いただきました。紙面にて改めてお礼申し上げます。
今日は、BY24の日本酒の会 sake nagoyaの合宿である。今年度の参加者は9名。列車内の待ち合わせで、名古屋発の特別快速で西に向かう。名古屋からは、JR東海道線で近江八幡へ、そこで近江鉄道に乗り換え八日市に到着する。
<2時間あまりの電車旅に出発>
実は今回の宿泊地の八日市は美食で有名な町である。山本益博氏の『味な宿に泊まりたい』では八日市の「招福楼」が紹介され、文中では招福楼に一寸昼食を食べに行くという感じで書かれている。後から確認したのだが、入り口からは玉砂利と鬱蒼と茂る緑が見えるだけで玄関は見えない大料亭である。いやはや驚いた。東京から新幹線で来る客も多いとのことだが、ここは時間と財布に余裕のある人の世界。蔵見学は12時30分からとお願いしてあるため、バタバタと昼食会場の「ひなどり」に向かう。プリプリの鶏肉とトロトロの半熟卵、評判に違わず美味でした。喜楽長さんは、八日市駅からタクシーで10分程度。分乗し蔵に向かう。
<とろとろの親子丼>
今日お邪魔する「喜楽長」の喜多酒造さんは、名古屋からいうとほぼ真西、鈴鹿山脈を石榑峠で越え、紅葉で有名な永源寺を通って少し下ったところにある。八日市駅からタクシーでしばらく行くと、右手に看板が見えてくる。
<印象的な看板である。>
喜楽長を知ったのは、もう30年近く前になる。現、あま市のサケハウスさんで購入し、その優しさや上品さに引きつけられたことが最初だった。その後白洲正子氏の一連の著作に導かれて、滋賀県の旅を続け沢山の蔵を知ったが、この蔵は是非訪ねてみたい蔵だった。
また、この蔵は、藤田千恵子さんの『杜氏という仕事』でも紹介されている。この本は、喜多酒造の天保正一杜氏を取材し、一年間の杜氏の仕事と天保氏の人となりを紹介したルポである。天保杜氏の時代はもう随分前になったが、書斎派のマニアとしてはこの点からも気になる蔵である。
蔵に到着する。
「もう甑倒しも終わって、モロミが2本残っているだけですが…」
喜多酒造社長の喜多良道さんが迎えてくれた。ユーモアのセンス溢れる紳士である。
「お話を伺っているとよく酒造りについてよくご存知のようなので今日は上級者編で行きます」
やや緊張ぎみで見学が始まった。
<広い中庭で説明いただく。>
甑倒しは、2月23日に終了、3月14日には皆造の予定で、蔵の仕事は一段落した時期のようだ。酒造の要、杜氏については、「喜多酒造は、代々能登杜氏に縁があります。昭和30年から平成17年までは天保杜氏、平成18年からは家修(いえおさむ)杜氏です。酒造りの最高責任者である「杜氏」と、酒蔵を経営する「蔵元」とは、一心同体であり、信頼関係がないと、良い日本酒を醸し出すことはできません」と語る。現在、杜氏は、大まかには伝統的な出稼ぎ形態の杜氏、社員杜氏、蔵元杜氏の3つの種類に分類される。社会の変化により、現在、杜氏は、出稼ぎから社員杜氏や蔵元杜氏に転換しつつある。それぞれに蔵の事情もあると思うが、設備の更新など日本酒を造る前提となることがどのように決められ、また各銘柄の味がどのように設計されるかお伺いしたいと思う。
「家杜氏からは「社長はどういう酒をつくりたいですか。」と問われたことがありました。造るは蔵元の仕事だが、醸すは杜氏の仕事で人員体制や設備の更新を杜氏の交代とともに進めてきました。エアシュータを使い蒸し米の運搬の効率化を図っている蔵も多いと思いますが、汚染されやすいという難点もあるので、エアシュータを見直し、人員体制の変更と併せて手作業で蒸し米を運搬することにしました。家杜氏に交代してから洗米機も導入しました」
<水流式の洗米機>
<中が回転し、浸漬後脱水する。>
誰かが聞いた。
「お米はどんな米を使っているのでしょうか」
「米は、滋賀と兵庫の山田錦、吟吹雪、渡り舟6号など。生産量は約1000石。40%から75%まで自家精米しています。精米後は浸漬時の米割れを防ぐため、普通「枯らし」という、米の水分量の回復期間をおくのですが、家杜氏に交代後、精米後一工夫することで、この工程を省くことができるようになりました。精米は、精米機のプログラムを変更して現在扁平精米をしています」
手元にある『増補版清酒製造技術』によると、精米機の給穀量と金剛ロールの回転数の調整により扁平精米ができるとの記述がある。工夫次第で、精米機を買い換えなくても扁平精米ができるようだ。
「水はどんな水でしょうか」
また誰かが聞いた。
「水は愛知川の伏流水で、弱軟水です。後ほど飲んでいただきます。現在、7人で造りをしています。洗米後は、10キロずつバッチ処理で限定浸漬します。その後は、30秒脱水機のような機械で水を飛ばします。10キロの米が麹米で12.9キロ、掛け米で12.3キロとなるよう仕込み時期の温度を考慮し時間を調節しています」
鈴鹿山系は灘と同様な花崗岩地帯であるが、弱軟水のようである。
<もうすっかり片付いている。 >
精米、洗米、蒸しの説明を伺った後、麹室での説明が始まった。
<麹室。造りの前はアルコール消毒する。>
「麹室は、以前は板張りでしたが、パネルヒーターと除湿機で温度湿度をコントロールできる時代になったので、ステンレス張りにしました。近いうちに2室から4室に増設する予定です。この麹室を見にいらっしゃった蔵元さんもありました」
もちろん作業のシーズンは終了している。きれいに清掃されている。
<分析室。台の上が振動式密度計>
次に分析室に案内された。ここには振動式密度計(黄色の箱の上)があった。従来はアルコール度や日本酒度は浮標を使って測定していた。しかし、定められた温度で測定する必要があるため、手間がかかり、また誤差が生じやすい。この機器の導入によりその点が解決されたそうである。
<仕込み蔵、きめ細かな工夫が見られる。>
仕込み蔵の中を見せていただく。使用する酵母は協会14号が多く、普通酒には7号系の酵母も使っている。その他に9号や自家酵母も使っているとのことだ。
<永田醸造機械の圧搾機。薮田式とは少し違う。>
効率は悪いが、よい酒を造るため、粕に雑味を持っていかせる造りを心がけているとのこと。1トンの仕込みで約500キロが粕となる。
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