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2008.3.8(土) 家鴨あひるさんと萩乃露の見学に行きました。

滋賀県のお酒についてご存じだろうか。上原浩氏監修の『極上の純米酒ガイド』では、東海北陸地方では愛知県、近畿地方では滋賀県だけが日本酒空白地帯になっている。しかし、歴史上、琵琶湖を廻る地域は、若狭からの交通路ということもあり、京より早くから開けた場所である。松尾大社の創建に係わった秦氏を始めとする帰化人の足跡も多く残るこの地域に銘酒がないわけがない。

今回お邪魔する萩乃露の福井弥平商店は琵琶湖の北西側、近江高島駅近く、万葉集で高市黒人が、「いづくにか我は宿らむ高島の勝野(かちの)の原にこの日暮れなば」の高島市勝野にある。
私が、萩乃露を知ったのは、昨年、いつもお世話になっている堀一さんで「山廃仕込み 芳弥 特別純米 2002序〜ことはじめ〜」の味−旨みがあって、少し枯れた味−に感動したことに始まる。結局、何本購入したのかわからないが、新しい種類のお酒を買わないときは「ことはじめ」を買うということを続け、年末に最後の1本を買った。
どなたかに紹介をお願いして、萩乃露にお邪魔したいと思っているとき、家鴨あひるさんのメルマガ『滋賀メチャ!うまい酒と小さな旅』に蔵見学の告知が掲載されているのを見つけ、さっそく参加をお願いした。

ここで、家鴨さんを紹介させていただこう。
家鴨さん、http://ahiru-ie.way-nifty.com/s2/ は、私が滋賀県のお酒のバイブルとしている『近江の酒蔵−うまい地酒と小さな旅』を個人で出版され、滋賀の日本酒を愛する酔醸(よいがも)会事務局を担当されている。また、平成18年度には、近江銘酒蔵元の会による「近江地酒大賞」を受賞されている方である。http://www.bcap.co.jp/kuramoto/
滋賀県のお酒の普及に大きく貢献されている家鴨さんと酔醸会の活動には、日本酒を広める活動を続けている日本酒の会sake nagoyaとして学ぶべきことが多い。どんな方が個人で本を出版されたのか。ぜひ一度お会いしたい。こんなことからも、今回蔵見学への参加をお願いした。

今回、お邪魔する蔵は、滋賀県高島市にある。合併するまで、マキノ町、今津町、安曇川町、高島町、朽木村…と呼ばれ、当代一の目利きといわれた白洲正子氏の指摘を待つまでもなく魅力溢れる地域である。ただ、名古屋からは湖西の高島市はあまりに遠い。名古屋7:05出発で、米原、近江塩津経由、目的地の近江高島に着いたのは10:22だ。東京より遠い。線路脇に残雪が残る中、3時間列車を乗り継ぎ高島駅に降り立つ。改札口には、「滋賀の酒のバイブル」で姉御と紹介されている永野さんがいらっしゃった。しかし、声をかけるのも一寸…というわけで少し待っていると家鴨さんがいらっしゃった。
「こんにちは。無理やり参加させていただきます。よろしくお願いします」
「遠いところをようこそ」総勢7名の見学会である。
小雨の中を福井弥平商店に向かう。冬の滋賀県は天気が安定しない。名古屋は快晴だったのに。駅前の道を国道161号で折れ、少し行ったところに、福井弥平商店はある。今まで、いくつかの蔵を尋ねたが、ちょっとないほど大きなお屋敷である。当主は現在の滋賀県酒造組合の会長さん。今年も全国新酒鑑評会金賞受賞の蔵だ。

潜りのところで、専務の福井毅さんが待っていてくれた。「よくいらっしゃいました」福井さんはなんと名古屋市緑区出身でとのことである。
さっそく、110年前に建てられたという母屋の座敷に案内された。
蔵は、250年前の寛延年間(1748〜51)創業。「萩の露」の名はこの地を治める大溝藩藩主から群生する萩にちなみ賜ったとのことである。
概要を伺ったあと、愛知県では全く見かけないのですが…と失礼ながら尋ねてみる。
「滋賀県内ではごく普通の銘柄で、県南西部を中心に販売しています。でも、県外での取り扱いは数軒だけです。東京でも発売すればと言ってくれる方もいるのですが、再々出向くことはできないですし…」
東京で売れたという話はよく聞くが、地元で元気にやっている蔵は少ない。商圏が確立されていれば、県外で販売する必要はないのだろう。堀一さんの取り扱いも、偶然の巡り合わせとのことだった。 
「ただ、難しいのは、地元の嗜好と新しく造ってみたい酒の差です。地元の嗜好は、少し味や甘みがあり飲みごたえのある酒なのです。例えば大吟醸は必ずしも地元向きではないかもしれないです。全体として、萩乃露は教科書的で面白みのない蔵と思われているかもしれませんね。」と笑う。確かに飲みなれた地元の方とマニア受けするものとのギャップは大きいのだろう。
萩乃露を知ったきっかけは、「山廃仕込み 芳弥 特別純米 2002序〜ことはじめ〜」を飲んだことなので、このお酒について伺ってみた。
「『序(ことはじめ)』は私が最初に蔵に入った年に、仕込んだお酒です。能登出身の中倉杜氏にとっても、初めての山廃仕込でした。平成13年でした。思い出が詰まっているお酒です。でも『序(ことはじめ)』も少なくなり、私と杜氏がそれぞれもっている分だけになってしまいました。今日はせっかくの機会ですから私の持っている最後の1本を開けましょう」
萩乃露の仕込み水は軟水のため、柔らかい酒質になる。反面、発酵が弱くアルコール度数が高くなる仕込み後半になると酵母がへたり、切れがでないらしい。しかし、山廃酛で仕込むと酵母が鍛えられ、ずっと平均的にボーメ切れていき、もろみの段階までいくとかえって速醸より造りやすいとのことだ。
「山廃に注目したのは、大七の皆伝生酛を飲んでからです。濃いわけではないが、きれのよいお酒でした。次は高精白の山廃そして生酛もやってみたいです。」

次に造りについて伺ってみる。
「造りの要の中倉杜氏は能登から来てもらっており、今年で22年目です。能登杜氏組合の会長です。造りは能登から4名、まかない2名、あと人手がいる時には5,6名が手伝っています。自分は6年ぐらい前から造りに加わっています。経営と造りを兼ねるのは、難しいですが、造りにも携わらないとお酒に込めた思いの部分が理解できないと思います。」
最後に酒米や酵母について伺う。
「酒米は、滋賀県の酒造好適米の吟吹雪が中心です。難しいですが、コシヒカリでも仕込んでいます。酵母は、試飲してもらう山廃仕込み 芳弥 特別純米2002 序など山廃は14号系、吟醸純米無ろ過生源流渡舟2008などは9号系です。例えば、14号といっても種類があるのです。」

質問はこれぐらいにし、座敷をあとにした。まず入口の所にある仕込み水をいただく。柔らかい水である。そのあと醸造中の蔵に通された。驚いた。とにかく広いのである。今は石高は少なくなったというものの、一千石を醸造しているとのこと、1つの蔵だけでも十分大きいのに特定名称酒用と普通酒用と2つの蔵があり、それぞれに室もあるとのことだった。広々とした蔵の中に整然とタンクが並ぶ。そのあと、貯蔵用の冷蔵庫にも案内されたが、温度別に3か所に分け貯蔵されているとのこと。3年間熟成させるお酒もあるとのことだった。
蔵を一回りして建物の裏側に回ると蔵らしい景色が広がり、アマチュア写真家が被写体としていた。

蔵を拝見してから、35%と40%の大吟醸を試飲させていただく。家鴨さんたちのもともとの目的は、大津の朝市で販売するお酒を選ぶためとのこと。大変なお酒を試飲させていただく。どちらのお酒も山田の19BYだが、3年熟成させると「至福」として発売されるものだ。口に含むと上品な香りとともにかすかな味が広がる。淡く幽かな大吟醸の世界である。
人の目を引く新しいブランドを立ち上げ、都市で売り出している蔵は多い。一方、萩乃露は、地元で愛され、山廃等の新しい酒造りに挑戦するだけでなく、全国棚田100選に選ばれた「畑の棚田」の活性化に協力するなど地元への貢献にも力を入れ、あくまで「萩乃露」というブランドを深めている。そこには、滋賀の人たちの地元への誇りや愛を強く感じる。

近江は、歴史から降り残されたような場所で、21世紀の現代でも美しい景色が残り、観光客がほとんど訪れないお寺も多い。湖西から朽木そして左京区花脊に至るあたりや、近江八幡から三重県に亘る地域は私のお気に入りである。また、海の魚に比べ、湖魚は、味が淡い。今津に贔屓の料理屋があり、ずいぶん通ったこともあった。そんなころは琵琶の長寿をお気に入りとしていたが、万事が地味な滋賀県には今回の萩乃露を始めとし、まだまだ新しい発見が期待できるようだ。2002はもう世の中に存在しない。そろそろ萩乃露銘柄の中から新しいお気に入りを見つけようと考えた。

さて、今日のもう一つの楽しみは喜多品老舗での昼食だ。初めて知ったのだが、お邪魔するお店は、1619年、元和年間の創業である。部屋に通されると若鮎の佃煮、海老と大豆の煮たもの、オカラ、丁子麩のヌタ、そしてフナ鮓などが並んでいる。

お酒は、萩乃露の(1)吟醸純米無ろ過生源流渡舟2008(2)吟醸純米無ろ過生名流山田錦2008(3)槽場直汲み中汲み無ろ過生手造り純米2008(4)山廃仕込み芳弥辛口特別本醸造(5)山廃仕込み芳弥特別純米2002序〜ことはじめ(6)山廃仕込み芳弥特別純米無ろ過2007の6本。全体にやさしい味のため、山廃や長期熟成により一癖つけた方がよいのかもしれない。

冷と燗をいただいたが、今回初めて経験したことがある。「猪口燗」である。普通、燗は徳利を湯煎するため、どうしても時間がかかり、待ちきれないことがある。また、燗付けの種類が多くなると、徳利の数の制約がある。そこで「猪口燗」である。猪口に半分ぐらいお酒をいれ、湯煎をしているお湯に浮かせる若しくは手で持ち燗をつけるのである。酔醸会が考案したのか大変良い燗つけの方法である。

見学では落ち着いて自己紹介もできない状況だったので、改めて自己紹介となった。7人の中には、姐御こと永野さん、sake nagoyaのメンバーとも付き合いのある奈良のお酒を紹介しているマーキーさん、会社経営者の方、家鴨さんの能管の妹弟子さん、フグ調理師の方と多方面。楽しい2時間となった。最後に、フナ寿司のお茶漬けをいただきお開きとなった。
今回は、はるばる近江高島まで出かけたのだが、おいしいお酒と喜多品の料理、家鴨さんを始め多くの方とで会うことができ大変有意義な会となった。

家鴨さんを始めとする酔醸会の皆様、ご案内いただいた福井専務にお礼申し上げるとともに今後ともご交誼をお願いしたい。

(報告:T)

 

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