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酒質の向上を目指して。(2006.4.29)

 ごとう屋さん 酒はやしさん主催の蔵元見学に参加させていただいた。
 参加者は、ごとう屋さん&息子さん、酒はやしさん、両店の顧客3名、熱心な会員A氏及びM氏、そして書斎派こと私である。


「長珍酒造」

 「長珍」の名前は、会員の間でも愛知の銘酒としてよく聞く。しかし、随分前に若水で醸したものを飲んだことがあったがピンとこず、そのままとなっていた。ところがこの3月に松坂屋で開催された「愛知の地酒フェアー」で会員のH氏と長珍の若水と山田を試飲する機会を得た。 若水は香りの点で好きになれず、また味にも少し癖がある。一人なら山田を選んだところだ。しかし、尊敬する先達H氏の「こっちの方が癖のあるところがよい」の一言に恥ずかしながら評価を一転、若水を選んだ。その時購入した4合ビンでやっと長珍のおいしさに気づいた次第である。こんなこともあり、長珍酒造さんは是非行ってみたい蔵だった。今回、見学する機会を与えてくれたごとう屋さん、酒はやしさん、そして忙しい中ご説明いただいた長珍酒造の桑山専務に感謝したい。

 長珍酒造は、津島市本町つまり天王祭で有名な津島神社のすぐ近くの古い町家が残る一角にある。高山風の火袋を見上げながら走り庭をとおり、店の奥に案内された。
 中庭に面して、3つの大きな蔵ある。一番古い蔵は、なんと江戸時代に建てられたものである。蔵に囲まれた中庭でまず蔵の概要について伺った。


「中庭」

 長珍酒造は、津島市本町つまり天王祭で有名な津島神社のすぐ近くの古い町家が残る一角にある。高山風の火袋を見上げながら走り庭をとおり、店の奥に案内された。
 中庭に面して、3つの大きな蔵ある。一番古い蔵は、なんと江戸時代に建てられたものである。蔵に囲まれた中庭でまず蔵の概要について伺った。

 蔵の創業は江戸後期。代々「量を求めず質を追求せよ」の方針で経営を続け、ご説明いただいた桑山さんで6代目。多くのメーカーが量産に走った高度経済成長時代には随分苦労されたとのことである。生産量は、現在年間400石とのことである。
 誰かが訊いた。「長珍という名前は、昔、提灯を作っていたからと聞いたのですが」
「そう書いてあるものもありますが、間違いです。提灯は天王祭にゆかりがあり、縁起もよいことから「ちょうちん」という名を付けたようです。ただ昔は「挑灯」という表記だったようですが」と笑いながら教えてくれた。

 さて、いよいよ蔵の中の見学である。蔵に入ったところに特別大きな和釜がある。
 「酒造りでは、よく一に麹、二に酛、三に造りというのですが、自分は蒸が大切と思います。少し空炊き気味にし、乾いた蒸気で一気に米を蒸上げます。機械蒸ではなかなか上手くいきません。この釜は、普通より随分大きく、広い面積を利用して一気に蒸揚げることができます。ただ、和釜に据えた甑から、人力で蒸米を運びださなくてはならないので本当に大変ですよ。」
 故上原氏も「一に蒸米、二に蒸米、三に蒸米、四、五がなくて、その次に麹」と提唱していた。旨みののった酒造りには、米を外硬内軟に蒸上げることが必須だ。この蒸米が、突き破精麹を造る基点となる。近年はボイラーで蒸す蔵も多い中、長珍は頑なに和釜で蒸す。この手間を厭わない姿勢、否、このことに象徴される細部へのこだわりが美味い酒を造り出す秘密かもしれない。また、この蔵の麹室では乾いた麹ができるようだ。乾いた麹とは、十分締まった麹ということだが、外が硬く、芯に麹が食い込んだ状態でこれもよい酒を造る条件となる。
 「蔵での作業は誰も見ていません。手を抜くこともできます。でもそのことは酒を通し飲む人に伝わります。自分のできることは、手を抜かずに努力を重ねることだけです。」と熱く語る。

 ゴールデンウイーク前は、酒造りも貯蔵の段階。少し涼しい蔵の中では、常温タンクからサーマルタンクまで大小のタンクが熟成の時を過ごしている。

 書斎派は聞いてみた。「どんな酒を目指しているのですか」
 「今はまず色々な酒を造ってみたいです。目指す酒としては、自分なりの蔵なりの米の味のでた酒を造りたい。香りの高い酒や軽めの酒ではなく、しっかり味がのった自分の飲みたい酒を作りたい。作り手の熱意が伝わるような酒です」
 昔、津島のあたりは、島が点在する浅い海で、仕込水には地中に埋まった貝のカルシウムなどのミネラル分が多く溶け出し、酒造りに適しているとのことだ。今後、ますますのご努力を期待したい。

 さて、蔵を一回りした後、冷蔵庫で長期熟成されたものや常温熟成されたもの、更に出品酒まで試飲させていただいた。試飲については稿を改めるが、出品酒についてだけ記述したい。実は出品酒は、試飲させていただいた中では、とりたてて美味しい酒ではなかったのである。
 「鑑評会用には鑑評会用の酒を造ります。賞をとるには、ちょっとコツがありますから」と桑山さんは微笑んだ。

 「名古屋は淡麗系が強いです。夏は軽め、冬はこってりでいいのです。ただもっと味のある酒があってもよいと思います。マスコミが淡麗系を持ち上げたことも原因ですが、そろそろ消費者も自分で選ぶ段階に来ています。人は昔からそれほど変わっていません。常温で枯れた酒も売れるときが来ます。時代に流されず本質を見極めないと。燗酒を飲むと体のしんからほっとしますね。」桑山さんは、私たち消費者に名前だけに囚われず自分の舌で味わうことを求めている。H氏の意見で、考えを真反対にするような私こそが問題なのだ。桑山さんの話にもう少し耳を傾けたい。
 「きれいだけが全てではありません。例えば雑味にもよい雑味、悪い雑味があります。消費者には、自由な発想で飲んでほしい。日本酒には造りだけでも幅があるのに熟成ということもあります。もっとも火落ちもしますけどね」と片目をつぶった。


「造りに込めた気持ちはどこにも負けない」

 酒蔵見学の最後を主催者の一人ごとう屋さんが締めくくった。
 「今日は、酒造りにかける思いをうかがい、また秘蔵酒を試飲できた。本当に感謝したい。お酒はいずれもここに来ないと味わえないすばらしいものだった。最先端の味だ。」

 「小規模な蔵では、タンクの洗いから掃除まで何でもしなくてはなりません。蔵人のいないこの季節は、家族だけです。でも以前買ってくれたお客さんから『おいしかった。またわけてくれ。』と言われると本当に励みになります。」特に遠くのお客さんからの問い合わせは嬉しいと言う。
 「以前と味が変わったと言われても、工夫を続けたい。酒質が安定しなくても、あるレベルが維持できればよいのではないでしょうか。蔵にもどり10年。まだ納得できるものはできません」

 来年はどんな酒を飲ませてくれるのか。阿波山田か若水かはたまた美山か。今から本当に楽しみである。

報告:T

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